Vol43.【授乳中の薬は飲んでも大丈夫?産婦人科専門医が解説 〜安全性と判断の考え方〜】

Vol43.【授乳中の薬は飲んでも大丈夫?産婦人科専門医が解説 〜安全性と判断の考え方〜】

「授乳中に薬を飲んでも赤ちゃんに影響はない?」
これは多くのママが抱える大きな不安です。
実は、ほとんどの薬剤は授乳中でも安全に使用できます。
しかし、添付文書には「授乳中は投与しないこと」と記載されていることも多く、薬局で調剤が止まり不安になるケースもあります。
本記事では、産婦人科専門医の視点から、**授乳中の薬の安全性と、正しい意思決定(Shared Decision Making:SDM)**について解説します。
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結論:授乳中でも使える薬は"圧倒的に多い"
まず最初に伝えたいのは、このシンプルな事実です。
授乳中に適さない薬はごく一部であり、多くの薬は授乳と併用可能
これは母乳への薬物移行のメカニズムが理由です。
●母乳に移行する薬は「ごく微量」
母体が薬を服用すると
→吸収・代謝され
→その一部が乳汁へ移行します。
その後、赤ちゃんが母乳を飲むと
→母乳に含まれる薬の一部のみが腸から吸収されます。
つまり、
実際に赤ちゃんが体内に取り込む薬物量は極めて微量
と考えられています。
これを「相対的乳児投与量」(RID)と言い、10%未満がおおむね安全と考えられています。しかし、この値を調べることは容易ではなく、不明であることも多いです。
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授乳中に避けたい薬はどれ?
産婦人科領域で授乳中に推奨されない薬剤は、実は限られています。
●授乳中に適さない薬
以下は医学的にも授乳中に避けるべき薬剤です。
•アミオダロン
•抗がん剤(抗悪性腫瘍薬)
●乳児への暴露レベルが高い薬
赤ちゃんへの移行量が比較的高いとされる薬剤
•フェノバルビタール
•エトスクシミド
•プリミドン
•リチウム
•ヨード製剤
●使用に注意が必要な薬
•放射性アイソトープ(甲状腺機能亢進症治療・一部の診断薬)
•乳汁分泌抑制薬(ブロモクリプチン、エルゴタミンの一部、経口避妊薬)
上記以外の薬については、通常使用で赤ちゃんへの大きな影響は現状指摘されてはいないものがほとんどです。
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「添付文書で禁止されている=危険」ではない理由
実際に当院でも、授乳中の患者さんに薬を処方しようとした際、薬局で『授乳中は投与禁止』と引っかかってしまうケースがありました。
これは、添付文書の記載の仕組みに理由があります。
●添付文書は「断言できない場合は"投与しないこと"と表現される」
妊娠中・授乳中は倫理的に厳密な治験ができません。
「安全である」「害がない」と完全に言い切るのが不可能なため、添付文書では次のようになることが一般的です。
安全性が証明できない → "投与しないこと"と記載せざるを得ない
実際には、多くの薬は臨床経験や母乳経由の移行量から安全性が高いと判断できます。
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「授乳中なのに薬を処方された...」という不安にどう向き合うか
若い世代の患者さんが増え、受診時に授乳中であることがわからない場合もあります。
その際、薬局から
「授乳中は禁止と書いてありますが、本当に飲んで大丈夫ですか?」
と言われて不安になることがあります。
しかし、その時に大切なのは**"迷わず医師へ相談する"こと**です。
●相談の例
「先生、薬局で授乳中は飲めないと言われたのですがどうしたらよいですか?」
この一言で治療方針が変わります。
•別の安全性の高い薬へ変更することも可能
•病態に対して薬が必要なら理由を説明して継続
•授乳タイミングの工夫を提案
→患者さんの希望に合わせて調整できます
●産婦人科医の考え方
薬物量は微量で
赤ちゃんにも腎機能があり代謝できるため、大きな問題は生じないことが多い。
そのため、
「一緒に判断しましょう」という姿勢が重要
です。
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授乳中の薬の判断は「SDM(共同意思決定)」が必要
授乳中のママは
「自分の薬のせいで赤ちゃんに影響があるくらいなら、薬は飲まない!」
という選択をする場合もあります。
これは母としてとても自然ですが、
薬を飲まないことで症状が悪化し、
結果的に育児や生活に支障が出るケースもあります。
そこで重要なのが、**SDM(Shared Decision Making:共同意思決定)**です。
●SDMとは?
医師が一方的に決めるのでも、患者さんが一人で背負うのでもなく、
メリット・デメリットを共有し、最適な選択肢を一緒に選ぶプロセス
です。
情報が多すぎて何が正しいかわからない今の時代では、この考え方が特に重要です。
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医師も「禁止される側の気持ち」を知っている
私自身(産婦人科医)も、授乳中(ミルク混合)に結婚式準備のため美容エステ機器を使おうとした際に「授乳中は使用不可」と言われた経験があります。
医学的に考えて
「なぜ授乳で不可なのか?」
と疑問があり、説明すると了承されましたが、決して気分の良いものではありませんでした。
この経験からも感じるのは、
「禁止」と書いてある=危険とは限らない
ということです。
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まとめ:授乳中の薬は医師と一緒に選ぶのが正解
授乳中の薬は、極一部を除けば安全性が高いことがわかっています。
しかし"絶対に安全"と言い切ることができないため、添付文書には「授乳中は避ける」の表現が残っています。
そのためこそ、
SDMが大切
一人で悩まない
という姿勢が重要です。
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当院の考え方
当院では、授乳中の薬について
•症状と生活への影響
•代替薬の有無
•母乳への移行量
•赤ちゃんへの暴露リスク
•ママの価値観・希望
を踏まえながら、
最も安心でき、治療効果も期待できる選択肢を一緒に決めていきます。
不安な場合は、些細なことでもご相談ください。
「薬局で授乳中にダメと言われた」
→迷わず聞いてください。
私たちがサポートします。
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【よくある質問(FAQ)】※SEO強化ポイント
Q1. 授乳中に市販薬は飲んでもいいですか?
一般的な解熱鎮痛薬や風邪薬は問題ないことが多いですが、種類によって異なります。服用前にご相談ください。
Q2. 授乳中の抗生剤は危険ですか?
多くの抗生剤は授乳中も安全です。赤ちゃんへの影響は非常に低いとされています。
Q3. 授乳中はいつ薬を飲むのがよいですか?
授乳直後の服用や、作用時間の短い薬に変更することで暴露量を減らす方法があります。
Q4. 添付文書が禁止なのに飲んでいいの?
添付文書は「安全性が証明できない場合は避ける」の原則に基づきます。臨床経験と最新知見に基づいて判断します。
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当院のメッセージ
情報が溢れる今、
「授乳中に薬を飲むこと」が正しいか間違っているかを一人で判断するのは難しいです。
だからこそ、専門家の視点から情報を整理し、あなたと赤ちゃんにとって最善の選択肢を一緒に考えることを大切にしています。
「何が自分にとって最も有益かを一緒に考える」
どうか、一人で悩まずにご相談ください。

監修医師の紹介

Mieruレディースクリニック院長柴田あずさ

Mieruレディースクリニック
院長 柴田 あずさ

日本産科婦人科学会専門医として産婦人科の病院・クリニックで研磨を重ね、2023年5月にMieruレディースクリニックを開業

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